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直近の行政処分事例から見えるもの
後ろ向きのテーマを上げてしまったが、我が国の業界全体の問題を考える時、いつも思うことがある。この業界は大きくなりそうでなかなか大きくならない。例えば米国と比較すると、証券会社数で15分の1の300社ちょっと、外務員数(営業可能な人員)では7分の1の9万人、証券会社の営業収益ベースでは10分の1の3兆円が最近の大まかな数字である。貯蓄から投資への大きな国家戦略は今でも変わらないと信じたいが、本当に業界として成長していけるのだろうか。6月に政府より示された“新成長戦略”においては、金融セクターは成長産業として経済をリードすることが求められているが、この業界=金融商品取引業者等に対しては、8月下旬に公表された“平成22事務年度 金融商品取引業者等向け監督方針”では、「金融商品取引業者等が、法令順守を徹底することに加え、市場の担い手として市場仲介機能を適切に発揮することにより、我が国市場に対する投資家の信認を高め、市場の発展につなげていくことが一層重要になっている」としている。

 この金融商品取引業者等は、次の様に分かれる。
○登録が必要なもの(当然、登録する為の要件がある)
・第一種金融商品取引業=証券会社やFX取引業者など→最低資本金規制や自己資本規制がある。またPTS業務など一部業務は行政の許認可が必要
・第二種金融商品取引業=ファンドなどの自己募集や販売など→最低資本金規制
・助言、代理業=投資助言や投資顧問契約等の媒介や代理→最低資本金規制、個人の場合は営業保証金制
・投資運用業=投信を含めたファンドの運用業務→最低資本金規制、個人の場合は営業保証金制
・金融商品仲介業=証券仲介業者→財源規制はない
○届出のみのもの
・適格機関投資家等特例業務=適格機関投資家だけを相手とするファンドの私募や運用を行う

 この金融商品取引業者等の最近の行政処分事例は、次の様なものがある。(一般の方の理解を目的に、簡略記載しているので、正確な情報は金融庁HPへ)
[投資助言・代理業者A社]
 投資助言業の実績が無いにも係らず、あたかも実績があるような事業報告書を提出し、また未公開株や無登録ファンドの販売業務に従業員を従事させた。また無登録ファンドのコストも自ら負担していた。本来は第一種若しくは第二種金融商品取引業の登録を行うべき。
[適格機関投資家等特例業務B社]
 自らを営業者等とする9本全てのファンドについて、当該ファンドの設立以来、適格機関投資家からの出資がないまま、一般の投資家を相手に、ファンドの自己募集や自己運用を行っている。本来は、これらの業務は第二種金融商品取引業及び投資運用業である。またこれらのファンドは、一部全く運用されていなかったり、役員に流用されていたりした。
[第一種金融商品取引業者C社]
 二度にわたりFX取引の為替レートを実勢と大幅にかい離したレートで誤送信し、この件で一度行政処分を受けたにも係らず、その後にシステム障害を発生させ多数の顧客取引に影響を与えた。府令に定める行政処分に違反した時及び電子情報処理組織の管理が十分でないと認められる状況に該当し、更なる行政処分対象になった。
[適格機関投資家等特例業務D社]
自らを営業者等とする6本のファンドのうち3本について、適格機関投資家からの出資がないまま、一般の投資家を相手に、ファンドの自己募集や自己運用を行っている。本来は、これらの業務は第二種金融商品取引業及び投資運用業である。また別のファンドでは無登録の投資運用業者にデリバティブ取引による運用を行わせていた。

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テーマ : 証券・金融関連業務
ジャンル : ビジネス

取引時間延長問題から見える取引所のガバナンス
一昔前、コーポレート・ガバナンスという議論を上場会社と始めた時、会社は誰のものかという単純なとこから敢えて行ったのは、ステークホルダーの中で株主(正確にいうなら少数株主=投資家)との関係を見直そうという目的があった。会社は株主のものではないと言った政治家が少し懐かしいが、当時は金融機関を中心とした上場会社間の株式持合構造が縮小するという認識がつよく、海外投資家や個人を新しい株主として意識してのコーポレート・ガバナンスであった。
 翻って取引所のガバナンスはどうかというと、東証も大証も株式会社ながら少しガバナンスの趣きが違うようにも思う。東証の場合はまだ上場してないので、株主=取引所の取引参加者つまり証券会社等(取引所にとっての主要取引先)だが、例へ大証の様に上場したとしても一般企業のように株主を意識したガバナンスとは異なる部分が残らざる得ない。取引所が誰のものかと言えば、それは相当部分については取引参加者のものだという事だろう。(取引所の直接の取引参加者は証券会社、間接の参加者は投資家)

 日本の取引所機能も国際標準に合わせて昨年初から随分強化されている。株式の完全ペーパレス化、取引の超高速化対応、そして取引時間延長への取組み。この取引時間延長について、東証は4つの論点を示して広く意見を集めたが、取引参加者間で意見が分かれているようだ。東証の斉藤社長の9月24日に行われた記者会見では、この問題に関して次の様にコメントしている。(下記のネット証券調査は、カブドットコム証券による自社顧客13000名回答のもの参照)

○昼休みの問題が最も関心が高く、現物の夜間取引・デリバティブのイブニングセッション延長・立会開始時間の前倒しはそれほど関心が高くない。
○ネット証券の調査では8割以上の投資家(ネット証券利用者)が賛成した昼休みの撤廃又は短縮について、昼休みの撤廃は逆に7割近くが反対している。反対の理由としては、
・前引け、後場寄りの2回の板寄せがなくなれば、売買成立の機会が減るのではないか
・機関投資家の昼休み時間中に行う取引所外でのバスケット取引がなくなるのではないか
○ネット証券の調査では半数超の投資家が賛成した現物市場における夜間取引の導入については、証券会社サイドの反対意見として、夜間取引でそれほど流動性が増すとは予想されず対応コストに見合わないというもの。
○ネット証券の調査では3分の2近い投資家が賛成したデリバティブ市場のイブニングセッション延長については、積極的な意見は殆どないが、大証の日経平均先物の取引時間延長に合わせるべきという意見やNYSE Liffeとの建玉移管スキーム開始後の状況を見定めるべきという意見。
○ネット証券の調査では半数超の投資家が反対した取引開始時間の前倒しについては、同様にメリットが見えないという意見がほとんど。

そもそも取引時間を何らかの形で延長しようとするのは、何の目的だったのだろうか。

単に欧米の取引所に合わせようということではないように思うが、何とかして取引量を少しでも増加させたいという直接の取引参加者である証券会社サイドの必死の思いが伝わってこない。今月21日から、それまで23時までだった夜間取引時間を、翌日午前4時まで延長した東京工業品取引所では、FX取引を行っていた個人投資家からのネット取引が増加し始めているという。同取引所の直接の取引参加者である商品先物業者からはコスト増を理由に反対されていたというが、取引量低迷への危機感から取引所が踏み切った。
取引所のガバナンスの重心は、直接の取引参加者である証券会社にあるが、自らの顧客でもある投資家増加策や取引増加策をどう考えるか、取引所と証券会社が試されている様にも思う。
 

テーマ : 証券・金融関連業務
ジャンル : ビジネス

大証のETF活性化策
先週21日、大証はETF取引活性化の為に、“ETF流動性向上プログラム”を10月から導入することを公表している。その内容は次の様にシンプルなものだ。
・既上場での新規上場でも、同プログラムの適用を申請することが出来る。
・同プログラムを申請した場合、ETFの運用会社は年賦課金(=年間の上場維持料に相当、新規上場の手数料は別)を半年毎にETF純資産の万分の8納入する。
・上記の対象となったETFについて、ETF純資産の万分の7を原資にして、半年毎に証券会社など取引参加者に報奨金を支払う。
・報奨金の支払対象は、当該ETFの指定参加者(主幹事証券会社)を除く売買代金上位5社。支払は売買代金に比例案分する。
※なお、通常の年賦課金は半年毎に純資産の万分の0.75
 スキームや実効性の評価は別にして、取引所自らが上場商品であるETFの流動性向上対策として、取引参加者である証券会社に報奨金支払うという取組みは注目される。しかし、反問してみれば、流動性対応を行わなければならない程、ETFの売買高は低迷しているのかということになる。

 結論からいえば、そのとおりで、日本のETFは上場数が増加するものの、受益権(投信なので)残高は余り増えず、そして売買高は減少している。

 先ずETF増加の背景は、投資ニーズの多様化に対応する為だが、政策的な後押しもあった。もうすぐ3年経つ市場強化プラン(金融・資本市場競争力強化プラン2007.12)では、信頼と活力のある市場の構築の為に、取引所における取引商品の多様化で、ETFの多様化が真っ先に上げられ、
○株価指数連動型ETFの多様化(関係政府令による対象指数の個別列挙方式の廃止)
○株式以外の上場有価証券を投資対象とするETFの解禁
○商品先物等を投資対象とするETFの解禁
が政策的に取り組まれた結果、東証上場は93銘柄、大証上場は12銘柄に増加している。この数字には海外で組成されたものや既に海外で上場されているETFも含まれるが、国内で組成された分は “ほふり”残高ベースで83銘柄ETF残高は23億100万口が8月末時点の数字である。市場強化プランの始まる2007年3月末では14銘柄だから国内ETF数は約6倍になった。しかし、残高は同時期19億2700万口だったので、約2割の増加に留まる。

一方、東証におけるETF売買は、下記の様な状況だ。
●売買高ベースの推移
2007年18億8341万口→2008年22億2227万口→2009年19億4017万口→2010年19億1068万口(8月までの数字を年間ベース化)
●売買高ベースの推移
2007年2兆6308億円→2008年2兆4017億円→2009年1兆8675億円→2010年1兆5879億円(8月までの数字を年間ベース化)
●直近8月の売買シェア(売付けベース)
法人=14.8%、証券会社=2.9%、個人=33.0%、海外投資家=49.3%

本来はETFの流動性を確保する為、裁定取引等を行う証券会社の売買への関与が、異常に小さきことが分かる。これなら取引所が証券会社の売買に報奨金を付けたくなるのも、わかる気がする。東証は今期中に100銘柄のETF上場を目指すというが、ETF売買を証券会社に促す仕組みが必要ではないだろうか。(例えば、ETFの証券会社自己売買の売買手数料や、裁定取引に係る株式の売買手数料を、免除する等)

テーマ : 証券・金融関連業務
ジャンル : ビジネス

そういえばCBがあった
金融サービスの融合と言おうが、新しいビジネスモデルと言おうが、証券の営業マンが銀行の定期預金を勧誘するという事に相当に違和感を覚える。個別の金融グループの事業戦略に物申すつもりはないが、それでも“貯蓄から投資”を促進するために頑張ってきた業界のあり方を思うと、何か割り切れない思いの方が強い。確かに日本経済に対する不透明感は、投資家の間に強いかも知れない。それでも、何か安全性の高いものに投資したいという投資家ニーズに応えて、金融商品を販売していくのが証券会社だったが、何も貯蓄を薦めることはない。国債もあれば社債もあり、J-REITも国内市場には整備されている。そしてCB(Convertible Bond=転換社債)がある。

 CBとは新株予約付社債のことで、2002年までは旧商法で転換社債と呼ばれていたが、今流に言えば社債にその会社の株式に転換できるコールオプションがついたものだ。投資元本は、社債の期限が来れば投資家に変換されるが、途中株式に転換することも出来るのでこの名称になった。現在は、コールオプション(新株予約権)が分離できるもの(旧来のワラント債=これも現在の新株予約権付社債)と区別するために転換社債型新株予約権付社債とも言う。本稿では、略称のCBを使うが、このCBは上場商品でもあり、既発行のCBは東証において売買することも出来る。

CBは証券の営業現場における嘗ての花形商品であった。発行会社の約束とはいえ元本が確保され、株価上昇のメリットもあり、そして途中の売買もし易い。バブル期には当時の時価発行を凌ぐ年間8兆円近い発行があり、1990年代半ばには発行残高が20兆円を超える時もあった。しかし、1990年台後半から急速に発行額が減少、2007年3月末時点でCBの発行残高は1兆5405億円117銘柄、その後も減少が止まらず、直近の8月末では残高1兆2136億円46銘柄まで市場が縮小している。

 このCB市場の極端な縮小の理由は、主に発行者サイドにありそうだ。学術的な探究は識者に譲るとして、市場関係者としての実感から言えば次の様なことが言える。

○CBは今でもリスクをある程度軽減する有効な投資商品である。
●但し、ここ10年来はコールオプションの価値=CBの転換権の価値がオプションバリューとして発行条件にも会計処理にも認識されるようになって、一昔前よりは投資家にとっても有利さは減少し、発行者の経理上の発行コストは上がっている。つまり、発行時株価に上乗せするプレミアム率が大きくなり、かつ発行者側もオプションバリュー分費用認識しなければならない。
●CBは東証に上場するため、その上場要件として個人投資家に相当数販売し投資家数を確保しなければならない。かつ、格付け取得も必要となる。つまり、販売サイドとしては、CBはある程度個人投資家に販売する努力が必要で、発行会社は格付取得作業が必要になる。なお、CBの発行の為にはBBB-以上の格付取得が必要になる。
○発行会社が引受会社に払う手数料は、CBが2%前後、時価発行増資が4%以上の事が多い。
○希薄化による株価下落インパクトは、時価発行増資よりCBの方が小さいはずだ。(CBの設計次第で下落インパクトを抑える工夫は可能)

以上から、CBは昔ほど発行会社にとっても引受業者にとっても旨味のあるものではなくなっているが、それでも株主や市場に配慮した発行が可能な金融商品と言える。今一度、CBの優位性を見直して欲しいものだ。 

テーマ : 証券・金融関連業務
ジャンル : ビジネス

証券業界は市場の声にもっと耳を傾けよう
市場の動きが全て正しい訳ではない。しかし、多様な取引参加者が参加する為替市場や株式市場において、何かの特異な動きを、市場からの何らかの変化を求めるサインとして見ることは、経験ある投資家らなら当然のことだ。指摘したかったのは、先週の為替介入後の株式相場の反発を横目に、証券株は総じて年初来安値を付けていることだ。22日付け日経の“まちかど”欄でも指摘されていたが、FX取引専業の株式は介入と共に反発したが、証券株か逆に売り込まれて年初来の安値を付ける銘柄も出ている。どちらも金融商品取引業者だが、一方は8月からのレバレッジ規制や証券会社のFX取引強化で今後の競争激化と収益性悪化が予想され、片方は日本株取引が減少しているが投信や外債はソコソコに売れている。業界環境を考えると、この動きには多少違和感がある。しかしこの証券株の軟調は、5月以降のトレンドとして一貫した動きだ。

本稿の目的は、相場観を語ることではない。ただ、業界の人間として、やはり市場の声は素直に聞くべきだと思うので、現在の市場から発せられているサインとは何かを考えてみたい。

 先ず日本株取引減少の影響についてだが、東証の総合取引参加者の決算概況によると株式の委託手数料の営業収益全体に占める割合は、平成22年3月期ベースで16%と10年前の35%からみると大きく減少している。つまり日本株取引減少の影響は、この10年で半分以下になっている。
 一方、増加したのが投資信託の販売だが、販売時の募集手数料と投資家が保有することで受け取れる手数料のダブルインカムになるので、収益面での貢献度は大きくなっている。 “ほふり”資料によると、4月以降8月までの投信増加は銘柄で117、金額で2兆9237億円増加しているので、こちらの方の環境は良さそうだ。

 行政面ではどうかというと、金融危機後のグローバルな規制強化の動きは一巡している。もともと日本では金融危機の原因となった証券化商品やCDSの取引が活発化する以前の段階だったが、G20で規制対応を求められている。格付機関規制やデリバティブの清算機関問題は、既に実行段階に入っているが、投資家には直接関係ないものの、業界としてのコスト負担増加は避けられなさそうだ。8月からのFX取引のレバレッジ規制もあり、2007年頃までの規制緩和路線から、最近はどちらかのいうと規制強化の流れなので、業界全体にはマイナス要因の様に思われる。6月に新成長戦略として打ち出された総合取引所構想も、業界としての議論の進展もなく実現性が見えていない。

 業界としての動きはどうなのかというと、関係者には申し訳ないが、協会で検討されているのは、業界活性化対応ではなく、どちらかと言えば規制強化協力路線(協会は自主規制機関として位置づけられているので、ある意味では当然だが)の様に思われる。9月から“証券市場の新たな発展に向けた懇談会”が開催されるようだが、検討事項が
・信頼向上のための課題の発見、問題お的及び施策の提案
・証券市場の利用者の意識の分析
とある。そろそろ投資家保護の視点を超えて、日本の市場が内外の投資家からどうしたら魅力的に見えるようになるかというような議論を期待したい。そうすることが300社以上ある証券会社(協会員)の支援になり、業界としての成長力も感じられるようになるかもしれない。

以上、市場から評価されない証券業界の置かれている環境について見てみたが、最後に証券会社自身のことについても触れておきたい。一般論として、市場から評価されない企業はディスクロージャーが悪い。その事なら証券会社は市場仲介者として熟知しているはずだが、自らのディスクロージャーに関してみると一部大手とネット証券を除いて、余り良い状況とは言い難い。不特定多数の投資家を相手にしているのであれば、自らの財務状況はどうで、販売戦略はこう、事業戦略はこう、といった程度の情報開示は行うべきだ。証券会社の透明性の向上で、投資家との信頼も増せば、日本市場の先行きも明るくなると信じていきたい。

テーマ : 証券・金融関連業務
ジャンル : ビジネス

“ほふり”の機能を見直そう
どんな取引でも、[情報を集めて整理する→取引の判断をする→取引の約定をする→取引の決済をする]の基本的なプロセスを経るが、どうしても世間の注目は、情報そのものや約定に集中しがちになる。金融商品においても然りで、取引システムや取引所機能の拡大は業界の耳目を集めるが、決済関係のことは余り話題とならない。識者においては、だいだい日本の決済制度改革は昨年1月からの株券の完全ペーパレス化をもって終了しているのではと指摘されるだろう。確かに、CPも社債も地方債も投信も、そして株式も含めて世に出回る金融商品の現物は、公募も私募も含めて殆ど電子化された。そして電子データとして管理されており、取引される度にそのデータは“ほふり”で動く。
標題に上げたのは、この“ほふり”に集まったデーダの使い方によっては、現在日本の資本市場が抱えている課題や機能改善に役立つのではと思われることが有るからだ。

日本の資本市場の決済インフラとしての“ほふり”の機能について、改めて考えてみたい。
“ほふり”=証券保管振替機構は、証券業界を中心にした金融機関170社の出資による株式会社であるが、東証と日本証券業協会で合わせ35%弱を保有して、資本金42.5億円、従業員数192名の組織である。東証と協会以外に出資している金融機関は、“ほふり”の利用者であり、また何らかの有価証券(金融商品)の決済口座を“ほふり”内にもっていて、日本で投資対象となるような金融商品は、ほゞ“ほふり”決済され、そして保管される。(未公開株式や、グリーンシート株式は、今のところ“ほふり”の対象外。)

ここから少し話が複雑になるが、“ほふり”利用者の金融機関の口座の中には、その顧客である投資家の口座が含まれていて、“ほふり”ではその投資家の口座まで管理している。勿論、投資家はその利用している金融機関に口座を持っているつもりだろうが、実際の決済・保管は、“ほふり”内にあるその金融機関の口座内の、更に顧客口座で行われて、それは“ほふり”が管理している。では、Xという投資家が、A証券とB証券両方にソニー株を持っている場合はどう処理されるかというと、“ほふり”で名寄せされる。
また、日本で唯一の金融商品の集中決済機関として、金融商品取引の決済照合を行うことも出来るし、DVP(Delivery Versus Payment)といって、金融商品とその売買代金を同時に決済することも出来る。

この事を簡単に言ってしまえば、“ほふり”には投資家の金融商品取引データが集積することになる。投資家の売買だけではなく、レンディング(貸借取引)、単なる金融機関間の顧客資産の異動、担保などの移動なども、そのデータを集積したり、また個別に取り出すこともできる。勿論、個別投資家のデータは守秘義務で守られるべきだが、本来投資家間で共有した方が好ましいと思われるデータは、“ほふり”を通じて整理し、そして共有すべきではないかという思いで、本稿を書いている。

ではどんなことが可能なのだろうか。少し実例を挙げてみたい。

【株式】よく日本の株主数は、のべ4000万人を超えたと言われるが、そんなに株を保有している人がいる訳がない。8月末時点に“ほふり”で名寄せした実数は、1643万人という。また個別銘柄の“ほふり”内口座の移動実数が把握出来るので、そこから売買数を差し引けば、貸し借りされた株数や担保に出されている株数を算出することが出来る。

【債券】証券業協会の社債流通市場活性化で、取引価格情報の共有が問題になっているが、投資家間を売買される社債は、全て“ほふり”決済されるし、取引の照合も“ほふり”内の決済照合が使われることが多くなってきている。この決済照合データは当然売買価格も含まれるのだから、この情報を集約して投資家に公表してしまえばこの問題は解決できるように思われる。

【投信】この8月には投信の解約が1日あたり5907件、2303億円、新規設定が1日あたり5292件、2612億円あったという。投信のデータも、その投資属性別に把握していけば、何が売れ筋で、何が投資家が減少しているか、ほぼリアルで把握することが出来る。

ただし、現在の“ほふり”には上記のようなことを行う義務は一切ない。しかし、アジアの中で日本市場をメイン・マーケットと位置付ける戦略をとるなら、せっかくある“ほふり”の機能を活用すべき時ではないだろうか。

テーマ : 証券・金融関連業務
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不適切な第三者割当とは何か
長い間、上場企業のファイナンスに関与する仕事をしているが、上場企業としての最終局面にも随分立ち会ってきた。そんな時、先ずある話は第三者割当増資の話で、果たして適切にアドバイス出来ていたか個人的には多少の悔いも残る。但し大体の場合は、幹事証券であっても関与せずという方針だった。殆どの場合、過小資本に陥っているので早急な資本(資金)調達が必要なのだが、そんな企業側の切迫感の中で、資本市場のルール遵守を説くためには、長年の信頼関係以上のものが必要だったかもしれない。

 上場企業も8月末時点で3680社あるが、これだけあれば様々な資本政策があって当然だ。但し“不公正ファイナンス”は排除されなければならない。“不公正ファイナンス”は証券取引等監視委員会(SESC)の命名だが、不適切な第三者割当(株式、新株予約権、CB)を使って行う下記の行為を指している。
▶ 既存株主の権利を著しく希薄化するもの
▶ 割当先が正体不明のファンドであったり、反社会的勢力の関与が懸念されるものも
▶ 金融商品取引法第158条違反の「偽計」を構成するものも
▶ 相場操縦、風説の流布、インサイダー取引、粉飾なども含む複雑・悪質な複合事案
勿論これ等の行為は、上場会社サイドが意図しなくとも、第三者割当先の出資者側の意図で、著しく既存株主を不利な状況に陥らせたり、株価操縦行為に利用される場合があった。その為、開示省令や取引所規則の改正を行い、事前の財務局相談や取引所上場部相談で不適切な第三者割当を排除しようとしている。

昨年8月から実施されている第三者割当に係る上場ルールの変更では、
○第三者割当に関して、10営業日前までに東証の上場部へ事前相談
○希薄化率25%以上または支配株主の異動を伴う第三者割当の場合は、独立した機関の意見書か株主総会決議
○出資金の根拠となる財産を確認、増資金額の根拠や資金使途の具体的内容、割当の内容が特に有利でないことの監査役等の意見書などを公表すること。
などが求められている。

 この結果、この1年間で東証の上場部によせられた事前相談の中で、不適切な第三者割当として示されたものには、以下の様な事例がある。(東京証券取引所自主規制法人“上場管理業務について 平成22年9月”より事例抜粋)

●調達資金の資金使途で、運転資金や借入金返済とした場合、資金繰り表や返済計画表を大幅に超えているケースや、新規事業投資の場合、事業効果に関する資料がないケース。
●払込金額について、出資者の意向に沿うため可能な限り安く設定しようとするケース。例えば“第三者割当増資の取扱いに関する指針”(日本証券業協会ルール)の時価90%基準を、株価を低く抑えるのに都合のいい期間で採用したケース。第三者割当の決議日前日を基準としない合理的説明が必要。
●ゴルフ場を現物出資の形で譲り受け、その対価として株式を第三者割当で発行する場合、ゴルフ場の資産評価に関する検討がされていないケース。
●ファンドが割当先となる場合、運用方針や業務執行組合員の経歴等そのファンドの属性の確認が必要だが、アレンジャーに頼って会社として精査していないケース。ファンドの場合、10%以上の出資者についての記載が必要で、その該当者が更なる上部ファンドの場合はその概況の記載内容を取引所に提出。
●ファンドからの払込みに要する資産の確認(出資金相当のお金があるかということ)について、仲介のコンサルタント任せで実質行われていないケース。
●割当先のファンド自らが、増資先上場会社株式の売買を行っていたので第三者割当を中止したケース。
●第三者割当では資金使途について詳細な開示が必要になるので、これを避けるため、一旦借入をしておいて、その借入をデット・エクイティ・スワップのかたちで株式に換える上場ルール潜脱を意図したケース。
●小規模保有の株主を排除する目的で、新株予約権を株主割当し、別途手数料名目で費用を徴収しようとしたケース。(事前相談の結果、この株主割当は中止)

以上に対する率直な感想は、事前相談段階で東証は第三者割当の内容に相当入り込んでいるというものだ。本来なら、真っ先に相談を受けるべき主幹事証券の助言業務の様にも思うのだが、自主規制機関に頼らなければならないように時代が変わっているのだろうか。

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ジャンル : ビジネス

社債市場改革問題を再び思う。何が社債のフェアバリューか
 最近の証券株の動きをみる限り、この業種は構造不況業種に入ってしまったのではと思われる程に活力がないように思う。“貯蓄から投資へ”というのも、この業界では少し色褪せてきたし、新金融立国やアジアのメイン・マーケットを目指した総合取引所構想も、具体的政策待ちで、東証の出来高減少傾向を背景にした沈滞ムードに下押しされている。業界全般で見ると、証券会社の売り上げに占める日本株の割合は減っており、別に日本株の売買で稼がなくとも、投信や外債の販売での利益を上げる収益構造転換が進んでいるはずだが、閉塞感のようなものが業界を覆っている。

 そんな中で、本稿では何度も取り上げてきた社債市場改革(日本証券業協会)に関して、再び取り上げたい。この問題を簡単に言い切ってしまうなら、日本の社債市場は、経済規模に比べて小さい、特に流通市場の未整備が目立っているため、投資家層も広がらないし、発行企業の拡大も見込みにくい。つまり、限られた参加者間での限られた市場という事になる。

この社債市場改革に関して、証券業協会が主催する“社債市場の活性化に関する懇談会”で、昨年の7月以来、1年間議論されてきて問題点別に部会を設け、更に1年近く議論していくという。
①第一部会では、社債発行の機動性を改善する為に、その社債を引き受けうる証券会社の引受審査の見直しを行う。
②第二部会では、社債がローンなどに比べて信用リスク上劣後しているのではという懸念があるので、コベナンツ=財務制限条項(ある一定水準の純資産や利益を維持しなければ、ローンや社債を返済する条件)などの信用リスクに関する情報開示の問題を議論する。
③第三部会では、社債を投資家に代わって管理する社債管理会社の機能について議論し直す。なお現状は、元利払いのみに関与する財務代理人で済ますケースが多く、コストのかかる社債管理会社は、個人向け及び低格付け債に限られている。
④第四部会では、社債流通市場整備の為に、社債の価格情報インフラの整備を議論していく。

本稿ではこの④の流通市場整備の為の価格情報共有の議論を取り上げるが、①~③までは発行市場の問題になり、それもかなり技術的な点も多く、発行市場の専門家でもなければ、その意義は分かり難い。
日本の社債投資家は、よくバイ・アンド・ホールドで新発の社債を買ったら持ち切りだと言われている。それだから流通市場の整備が必要ないのではなく、流通市場が整備されていないからこそ持ち切りになっているという理解を、市場仲介者である証券会社はするべきだ。その為、④では社債の取引価格の共有化システムについて議論される。

 この社債価格の問題を証券業協会で議論することは、実は多少の困難を伴う。それは、社債の価格情報が無いのかと問われれば、協会は有りますと答えざるお得ない。毎日、業者に社債気配値(相当数は実際の取引に関与していないので、業者毎に年限や格付けなどを参考にして出す推計値に近い)を提出させて集計している売買参考統計値がある。しかし、市場参加者なら、この値が社債取引の実勢値(フェアバリュー)をあらわしていないことは知っている。何に使われているかというと、主に機関投資家の資産評価に主に使われている。過去何度もこの統計値の集計方法を改革し、現実に証券会社も協会も相当の手間をかけているが、社債市場改革でいうところの社債の価格情報ではない。しかし、協会で議論するとどうしても、この統計値をどうするかという議論に戻りがちだ。

しかし、そろそろこの統計値を取りやめてでも取引情報を共有する仕組みを構築すべき時期にきていると筆者は考える。また債券価格情報の取扱いについて、よく何がフェアバリューかという議論をしたがる業界の傾向があるが、これも社債の流通市場改革議論では止めた方が良い。
社債の価格情報を無理に揃えることも、取引量の過多・過小でフェアバリュー議論を繰り返すのも、投資家にとっては余り意味ない(その取引価格がフェアバリューかどうか決めるのは、それぞれの投資家)。
それよりも、限られた投資家・限られた発行者・そして限られた仲介者の現状を打破する為、社債流通市場改革の最初の1歩を、業界として踏み出して欲しいと願うばかりである。

テーマ : 証券・金融関連業務
ジャンル : ビジネス

デリバティブ取引の不招請勧誘禁止等
米国のデリバティブ規制強化(金融規制強化法案に含まれる)は、デリバティブ取引のメインプレーヤーの行動を規制するものだが、日本のデリバティブ規制強化は、金融商品取引業者の投資家への行為規制が主になっているようだ。9月13日、金融庁より公表された“デリバティブ取引に対する不招請勧誘規制等のあり方について”では、次のようなデリバティブ取引に係る規制強化の対応方針が示されている。

※以下の取引規制は、プロ投資家は対象外。
●個人の店頭デリバティブ取引=不招請勧誘を法令で禁止。
(具体的規制対象は、主にCFD取引を想定。同じ仕組みのFX取引は、既に2007年の金商法施行から不招請勧誘禁止。)
●個人への店頭デリバティブ取引に類する複雑性を有するような仕組債・投信の販売=自主規制(証券業協会等が作成)において、適合性の原則等に基づく勧誘の適正化や説明責任等の徹底を図る。
(具体的には、商品のリスク特性や顧客の性質に応じて勧誘を行うか否かの基準の策定、投資家への販売する商品としての適否を事前検証などのルール整備)
●プロでない法人の店頭デリバティブ取引やそれに類する仕組債・投信の取引=自主規制において、説明責任の徹底を図る。
(通貨オプション取引は現状でも不招請勧誘禁止。その他、次の金融商品取引業者等の行為をルール化)

・最悪シナリオを想定した損失の説明を適切に行う。
・法人の場合、優先的地位の濫用がないことの説明を適切に行う。
・チェックシート(確認書)を利用し、リスク等の説明の確認を受ける。

●金融商品取引業者の自主規制として、不招請勧誘規制、リスクに関する注意喚起、金融ADR機関等の連絡先等を分かり易く記載した注意喚起文書を交付・説明する。

 不招請勧誘禁止は当然のように思うが、自主規制部分は少し業界として重いのというような感もする。業界の人間としての杞憂かもしれないが、金融商品取引法施行時に、その行為規制への対応を巡って、一時的に販売活動が停滞したことを思い出した。特に、自主規制部分の行為規制が、業界の実質的新規参入規制とならないことを願いたい。

 なお、不招請勧誘の禁止についいて触れておきたいが、法規制の定める禁止行為は、“訪問しまたは電話をかけて勧誘する行為”で、電子メールは禁止されていない。次の行為も除外される。
・継続的取引関係にある顧客に対する勧誘(最近1年間に2つ以上の取引、若しくは取引残高ありの場合)
・ヘッジ取引を行うための勧誘

 ただし、不招請勧誘禁止行為に違反したとして、次のような事例が行政処分の対象となっている。(金融庁行政処分事例より該当内容を抜粋)
●FX業者A社は、新規顧客開拓の為、電話帳から無作為に抽出した一般顧客に勧誘。一度断った一般顧客にも再度勧誘を繰り返した。(2006年)
●FX業者B社は、「預り金残高がなく、過去に取引があった顧客もしくは口座開設のみの顧客で、取引の再開や新規受注が見込める顧客」の一覧表を用いて勧誘、また従業員が前勤務先(商品先物)の顧客を勧誘した。(2006年)
●商品先物業者C社は、FX取引において、取引の要請のない一般顧客に電話で勧誘。また、一度断った顧客にも、訪問や電話で再度勧誘した。(2006年)
●証券会社D社は、FX取引において、FX取引口座を解約した顧客リストを作成、営業員に勧誘させた。また、FX取引業務を他社から譲り受けた際、取引口座の移管に同意していない顧客に対しも勧誘した。(2006年)

テーマ : 証券・金融関連業務
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日本版ISAサポートセンター設立を支持する
米オバマ政権は、歴史的な政策を相次いで実行しても支持率が低迷していると言われるが、我が国の政権は、嘗て示した歴史的な政策目標の、その実現のメドが立たなくとも、政権政党内の代表選のお蔭で内閣支持率は上昇しているという。環境問題、財政再建、そして年金問題。特に年金問題は、未払い問題の解消も大事だろうが、少子高齢化が本格化するこの先、制度そのものの見直しが必要なことは周知のことだ。その年金制度改革も、今までの企業や組合組織に頼ったものから、個人が貯蓄から投資を通じて、老後の必要資金を形成できる制度設計が業界としても望ましい。

 その意味で、2012年初から始まる予定の日本版ISA(Individual Savings Accounts:個人貯蓄口座)に期待したいが、どうもこの制度の現状は、株式等の譲渡益課税軽減措置の人質となっているようだ。つまり、8月末に金融庁から平成23年度税制改正要望で、市況環境の悪化を理由に出されている2012年以降の軽減措置継続要望が認められれば、この制度の導入は見送られる可能性が高い。日本版ISA制度導入を認めた財務省も、譲渡益課税の軽減措置廃止を前提にした経緯がある。また、この制度に対する行政の在り方も、お手本とした英国とは異なり、投資を通じた資産形成というよりは、投資の非課税措置の一つとして扱われているようで、非課税投資総枠は英国の3割程度で、売却後の非課税枠の再利用や年次を超えた繰越しが出来ない制度になっている。日本版ISA制度は、試験的な導入で始めるということかもしれないが、国民資産形成は財務省の管轄でないので仕方ない。

 そのような中で、日興アセットは9月10日に日本版ISAサポートセンターを設立した。日興アセットはこの組織を通じて、証券や銀行に以下のサービスを提供するという。
・ISAに関する独自の調査・研究に関する情報発信
・証券や銀行を対象とした日本版ISA勉強会の開催
・日本版ISA時代を見据えた商品・サービスの開発
日本版ISAにおいても、非課税期間の恒久化など一定の措置が取られれば、国民資産の7%を占めるまで成長した英国のISA同様に普及が期待出来るし、また高齢者だけではなく若い世代を含む幅広い年代の投資需要を生み出す契機になると期待できるとしている。このことを筆者としては全面的に支持したい。また願わくは、商品・サービスの提供において、オープン・アーキテクトな対応をされることを望みたい。

 ちなみに、8月に金融庁で開催された金融税制調査会において、中央大学法科大学院の森信教授より日本版IRA(Individual Retirement Arrangement:個人年金貯蓄優遇税制)の導入が提言されているが、英国のISA制度(※現在の日本版ISAではない)を、日本の年金制度の3階部分に適用しようとの試みにみえる。その提言概要は次の様になっている。
【目的】個人の自助努力で資産形成することを税制面から支援。企業間・世代間の不公平問題を解消し、雇用の多様化(非正規も含む)にも対応。年金制度の3階部分の将来的受け皿に。
【適用対象者】20歳以上65歳未満の個人
【運用方法】金融機関に専用の口座を開設。
【運用要件】5年以上の運用。
【課税方法】運用時非課税、年金として給付する部分の金融資産も非課税
【拠出限度額】年間120万円程度を想定。使い残しは翌年以降に繰越し可能
【導入時期】2012年度以降(金融機関におけるシステム開発機関次第)

日本版ISAでも日本版IRAでも、そして日本版401K(確定拠出年金=年金制度の2階の部分)拡充でもよいが、個人の資産形成を支援する税制を含めた骨太の制度論議が待たれる。
 

テーマ : 証券・金融関連業務
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米金融規制と金融機関のコーポレート・ガバナンス
10日の振興銀行破綻は、日本での規制緩和と金融改革の一つの挫折かもしれない。最近は別にしても、前回の日本の金融危機後、閉塞感のあった金融界においてイノベーションを標榜することに、業界の賛同者が集まった時期もあった。それが銀行という器を得たあたりから、何かおかしい方向に行き始めたのだろうか。銀行経営の巧拙は別にしても、伝えられるようなら、少なくともその銀行にコーポレート・ガバナンスの機能は働かなかった。

コーポレート・ガバナンスが働かなかったのは何も振興銀行だけではなく、金融危機の発火元になった米金融機関についても指摘されている。この7月の成立した米金融改革法(Dodd-Frank Wall Street Reform and Consumer Protection Act=ドット・フランク法)の中で、報酬規制を行うことでガバナンス機能を強化しようという部分がある。これは、そもそも金融危機の原因の一つとして、金融機関の行き過ぎた業績連動報酬が挙げられていることによる。CEOより高額の報酬を得ているトレーダーの一か八か的投資行為を非難する向きもあるが、これは少々違うように思う。結局、トレーダーでもCDOの証券化チームでも、それを管理する役員がいて、報酬に関するルールがあるので、この管理と報酬決定ルールが悪かったということになるべきだ。米金融規制改革法のガバナンス強化部分は次の様になっている。

【経営陣の報酬に対す株主投票=セイ・オン・ペイ条項】拘束力はないが、経営陣の報酬およびゴールデンパラシュートに係る賛否を示す(定時または臨時株主総会での)投票権を株主に付与する。
【報酬委員会の独立性】構成員を全て独立取締役にする。
【報酬の取戻し=クローバック条項】会計基準に反する不正確な財務報告に基づき支払われた報酬の払い戻しを義務化。
【当局による監督強化】当局は所属金融機関に関する報酬ルールの制定を義務付ける。
【新しい開示要求】過去の役員報酬と株価の関係、CEOと全従業員平均報酬の比率、保有自社株のヘッジ利益など

 なお、最近公表されている金融規制関係の資料では、“国際的な金融規制改革の動向”(みずほ総合研究所9月7日)が要領よくまとまっているので、参考にさせていただいた。同資料による米金融規制での金融・資本市場関連の主な部分は以下のようになっている。(抜粋)

【ボルカー・ルール】
○銀行グループに対し、自己勘定トレーディングとヘッジファンド・PEファンドへの出資を原則禁止(ヘッジ目的や顧客以来取引などの例外あり)
○但しファンドへの出資について、Tier1の3%以下なら、当該ファンドの受入出資金3%までの金額に限り許可。
○金融機関全体の負債総額の10%を超えるような大規模合併の禁止
【デリバティブ規制】
○デリバティブ取引の中央清算機関での清算を原則義務化
○デリバティブ取引の取引内容の情報蓄積機関への登録を義務化
○清算機関で清算されないデリバティブ取引に対して、資本要件の加重と証拠金を義務化
○金利為替スワップやヘッジ目的の取引以外で、銀行本体がデリバティブ取引をすることを実質禁止
【証券化商品規制】
○売り手に対して、商品信用リスクの5%以上を自ら保有するよう義務付け
○情報開示義務の充実
【信用格付機関規制】
○米SEC内に担当局を新設し、認定格付機関を検査
○格付手法や過去の格付記録等の開示を義務化
○米SECに格付機関の登録抹消権限を付与 

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証券会社の利益相反
 4月に、米SECがサブプライム関連のCDO(合成証券)の販売に絡んでゴールドマンを提訴した時に、多少の驚きをもってブローカーとしての利益相反問題に触れたが、この事を証券業務全体の中で考えてみたい。先ず、利益相反の可能性がある典型的事例として、次の2例がある。

【ブローカーとしての事例】
 外貨建債券の纏まった買いニーズを投資家Xから伝えられたA証券は、情報ベンダーが提供する価格情報より相当安くB証券より仕入れ、価格情報より相当の上値で投資家に売却した。
【アドバイザーとしての事例】
 売却意向のあるY社支配株主のアドバイザーに任命されている証券会社C社は、買い手候補Z社のアドバイザーを同時に努めること。

 勿論、上記事例で利益相反があり問題行為なので、即禁止すべきだと言っているのではない。逆にこの2例の様なことは証券会社の営業現場ではよくある事だ。しかし、次の様に顧客利益に反する可能性もある。

●投資家Xが実際の市場価格(この場合、情報ベンダーの提供する価格情報ではなく、B証券の提示する価格若しくはそれに近い価格)を知らず、従ってこの取引でA証券が実質的に上げた利益分を知らない。
若し投資家Xが、A証券はブローカーとして不当な利益を上げたと訴えるなら、米国の場合では、実際の市場価格はいくらで、手数料分はいくらと投資家Xに開示しなかったA証券が悪いということになる。
一方、日本でもブローカーとして媒介する場合の自主規制ルールはあるものの、この様な取引に絡んだ開示ルールはなく、利益相反対応は個別の証券会社に任せられる。簡単に言うと、米国の場合はいくら抜いたよとプロ投資家に対しても明示しなければならないが、日本では抜いた分を顧客に伝える規制はない。(手数料の上限を示す規制はある。)

●Y社の内部情報をよく知るC社は、M&A案件の成立を急ぐあまり、買い手Z社に対してY社の不利な情報の一部を伝えていない様な場合は、Z社のアドバイザーとして利益相反行為になることは当然だ。上場企業が係るM&Aなら、この様なM&Aアドバイザーの利益相反問題には売り手・買い手とも敏感で、M&Aの進展とともに途中からでもZ社には別のアドバイザーがつく。しかし、未公開企業同士の場合、企業の窓口となる営業店からのニーズもあって、双方のニーズをマッチングさせるM&A仲介をアドバイザー証券会社自ら行うことが多い。この様な場合、売り手・買い手の情報の非対称性をどう埋めるかが問題で、例えば売却企業Y社にC社の親銀行D社の融資がある場合、C社はY社・Z社双方に利益相反の可能性がある場合がある。日本では、昨年6月からのファイアー・ウォール規制緩和を機に、この様な利益相反の態勢整備がC社やD社に求められるようになっている。

 具体的には、この利益相反態勢の整備に関して、顧客に告げなければならないが、業界トップの野村証券の場合、以下の様な場合、利益草案の可能があり、情報や取引を管理するとしている。

1.有価証券に係る顧客の潜在的な取引情報を知りながら、当該有価証券について自己勘定取引を行う場合。
2.不良資産に係る情報を有しながら、当該資産について自己勘定取引を行う場合。
3.運用を受託している顧客資産に係る売買注文をグループ内の証券部門等他の部門を用いて発注する場合。
4.顧客から売買注文を受けた有価証券等について、自己勘定取引、引受けへの参加または受託者・運用者等を通じ、何らかの関与をしている場合。
5.顧客に対し資金調達やM&Aに係る助言等を提供する一方で、当該顧客に対するプリンシパル投資、当該顧客から資産の購入その他の取引を行う場合。
6.自社発行の有価証券または自己勘定において保有する有価証券を、顧客に推奨・販売する場合または自己が運用を受託している顧客資産に組入れる場合。
7.利害関係者が発行または組成する有価証券を、顧客に推奨・販売する場合または自己が運用を受託している顧客資産に組入れる場合。更に、これらについて自己がバック・ファイナンスを行っている場合。
8.競合関係または対立関係にある複数の顧客に対し、資金調達やM&Aに係る助言等を提供する場合。
9.顧客に引受けまたは有価証券発行に関する助言等を行いながら、他の顧客に当該有価証券の取引の推奨を行う場合。
10.資金調達に係る助言の提供先または与信先等である顧客に関する投資リサーチを提供する場合。
11.証券会社等の従業員が、顧客の利益と相反するような影響を与えるおそれのある贈答や遊興(非金銭的なものを含む。)の供応を受ける場合。

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今、上場企業に望む資本政策
 15年ぶりの高値と言おうか、何だか史上最高値に向かっていそうな円相場で、市場では為替介入の有効性の是非やその可能性について、いろいろ推測されている。普段なら為替の水準に関してコメントしない政府当局でも、為替水準と介入の可能性に関しても言及せざるえない現状である。
 そして企業価値が純資産額を大きく割り込んでいる企業が増加している日本の株式市場。これらの企業の経営者の多くは、自社株式は過小評価されていると言うだろうが、安すぎる自社株に対してもっと積極的に手を打っても良いのではないだろうか。企業経営者自らの株価対策についてコメントし、自社株取得を中心とした思い切った資本政策の実行を望みたい。

 自社株取得の具体的な方法は、金融機関など大株主から実質的に相対で取得するToSTNeT-3など取引所の立会時間外システムによるのではなく、企業が市場から直接取得していく市場買付の方法をもっと活用すべきだ。企業の市場買付に関しては、通常は規制があって、市場取引の4分の1以上を買い付けてはいけないとか、取引終了前の30分は買付けてはいけないというガイドラインがある。これは、企業自らの買付行為が常に他の市場取引参加者より有利な状況で行われるので、株価形成に関する影響度を下げようとするものだ。しかし、現状では空売り規制とともに、このガイドラインの規制は一部停止されていて、企業は100%市場に売り物を買うことが出来るし、取引終了時間まで買い付けることも可能で、これは10月末までの時限措置となっている。(この措置は、市場対策として空売り規制とともに更に延長される可能性もある。)
ただし、この措置を企業が上手に使っていくためには、前段で触れたように企業経営者による株価対策や株価水準に関する積極的な情報発信が必要と考える。この企業自らの情報発信を適時開示で行っていくことは、金融商品取引法の相場操縦規制への配慮にもなる。

 では具体的に行うとすると、どの様な資本政策になるのか。(※筆者の仕事柄、本音はご相談いただきたいが)恐れずに言えば、安く買って高く売ることだ。これをシステム的に行う方法としては、以下のようなものがある。

○自己株式取得資金を調達するために、新株予約権付社債(CB)を発行する。
○新株予約権付社債の行使価額(転換価額)は、経営者が適正と思っている水準まで思い切ってアップする。
○新株予約権付社債発行後から、自社株式を市場買付で取得する。

単純に言うとこれだけだが、実際はもう少し詳細な設計がいるし、その詳細部分は企業其々の環境を勘案すべきこともある。この方法はリキャップCBと言われ、米国などではよく使われる方法で、日本では2008年にヤマダ電機やJFAホールディングス、アサヒビールなどが発行し、本年もテンプホールディングスや日本ハムが発行している。但し、CBの調達資金を100%自社株取得に使うというものは無い。

 一般的なファイナンス論でいうと、潜在株を増やしておいて自社株を買いことになり、違和感を持たれる方々も多いと思うが、自社株式取得が旧商法で解禁されたときから資本の出し入れは実質的に経営者に委ねられている。調達理由の分かりにくい大量の公募増資や第三者割当より、この方は余程株主に理解しやすい資本政策と筆者は考える。

 なお、安く買って高く売った(このCBの場合は、株式に転換することを指す)自社株式の差額は、利益にはならないで、自己株処分差益として資本剰余金に組み込まれ、企業の自己資本を厚くすることに役立つので、株主からみても1株当たりの自己資本の増加に役立つことになる。

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あるベンチャー・キャピタリストの思い出
もう5年ほど昔になるだろうか、アメリカ(確かワシントン)からベンチャー企業の経営者(日本人)が来られ、日本で資金調達をしたいと仰るので、段ボールひと箱に収まりきらないような資料を一旦お預かりして、系列のベンチャーファンドに紹介した。当時は企画のような仕事していて、ベンチャーは専門外だったが、自己投資部門の同僚に相談したら、ビジネスモデルが面白いというので持ち込んだものだ。担当のベンチャー・キャピタリストに事前に預かった資料を渡し、そのベンチャー企業の経営者を伴い2時間程のインタビューに挑んだ。しかし、結果は投資せずで、それも比較的早い時期に返答を受けたと思う。紹介した立場なので、一応理由を聞いたが、日本人経営者の政治家との関係を示唆する発言が気に入らなかったようだった。
この事を思いだしたのは、先のベンチャー企業が最近よくマスコミに取り上げられるようになったからだ。この経営者のインタビューから、事業は7年前から始めて2年前から軌道にのったようで、最近は米行政の関与もあって更に飛躍しそうとのことだ。5年前、ベンチャー投資を実行しなかったことを悔いているのではない。唯、ベンチャー・キャピタリストの断った理由が妙に思い出される。海のものとも山のものともつかぬベンチャー企業を判断するのに、経営者の資質を見るのは当然だが、出来ればビジネスモデルを評価若しくは批判して欲しかったという思い出だ。

実際のベンチャーファンドの投資結果はどうなっているか見てみると、(財)ベンチャーエンタープライズセンターの調査では、ファンドの投資結果(EXIT)について次に様な結果になっている。(2008年度)
・株式公開=9.9%
・償却、清算=30.1%
・売却、経営者への売戻し=48.2%
・その他=11.8%
もともとベンチャー投資は成功1~2割、失敗2~3割と言われているが、分散投資の結果が極端に表れる自らのビジネスモデルでもある。だから、ベンチャー・キャピタリストが一つ一つのベンチャー企業をその投資対象として精査するとともに、ファンドマネージャーがファンド自体の成長ポートフォリオを仕組むマネージメントも必要あると思う。専門家の方々には恐縮だが、外野の声援として受け止めてもらいたい。
 ちなみにベンチャー投資の当事者になるベンチャー・キャピタリストに必要なものについて、経済産業省の報告書“ベンチャー・キャピタリストの能力開発に資するプログラム開発・実証事業 最終報告”(2004年)では次の要件を上げている。

【求められる基本的スキル】
・投資契約書の作成・締結、知的所有権に係る法務、取締役・監査役の権限・責任、IPOに係る法務・税務、倒産・廃業等に伴う清算に係る手続きなど
・ベンチャーファイナンス(企業価値評価、キャピタルゲインの予測、資本政策の策定、第三者割当増資・バイアウト投資等の選択・実行、収益計画・増資計画等の立案、株主構成の調整など)
・企業経営の支援、企業戦略・事業計画の立案・支援、マーケティング戦略の立案・実行、人事管理・人材確保など
・技術力・競争力評価のための専門的知見、テクノロジーマネジメントの実行・支援、市場環境・業界動向・競合他社の事業戦略等に関する見識など

【シニアマネージャーの要件】
・投資対象となり得る案件を早期段階で発掘し、投資計画を見据えた起業・スタートアップを計画・支援・実行できること
・潜在的なリスクを探知・算定し、バリュエーションに反映させることができること
・ビジネスプランや成長可能正当を見極め、適正な投資の可否判断が下せること
・企業価値の向上とIPO等の実現に向けて、投資先企業の成長過程をプランニングし、適切且つ時期を得たアドバイス・支援を実行できること
・常にリスクとリターン、投資期間内のマイルストーン、想定されるExit等を認識した上で、投資先企業をモニタリングし、経営状況にあわせて適切な資本政策やコンサルティング支援を実行できること
・IPO以外の多様なExit戦略の手法を熟知し、投資期間内にリターンの最大化を図り得るExit手法を選択・実行できること
・実態が顕在化する前に、リビングデッドの状態を察知し、リスクを極小化させ得るExit手法(清算手続き等)を選択・実行できること

 相当に大変な仕事であることは事実で、欧米でのベンチャー・キャピタリストの地位は高く、またベンチャー・キャピタリストを養成するビジネススクール(MBA)なども整備されているという。日本でのこの分野の人材育成の現状は如何だろうか。

投資家向け金融商品情報提供について
永年仕事をさせていただいている証券業界での情報のあり方について、そろそろ業態転換するような大きな変化があっても良いのではないかと思う。この様な市況環境(特に証券業界にとって)の悪いときに、何を言っているのかと先輩諸氏に怒られそうだが、情報が“ある”“ない”の2元論的なブローカー業務から、情報に付加価値をつけていくような新しいブローカー業務に変化していくよう期待しているからだ。

 そもそも昨年初めから流通可能な有価証券(株式から私募債を含む債券、そして投信)は完全にペーパレス化されており、既に一般的な金融商品は情報化している。この情報化した金融商品は、実際の売買と必ずしも連動しなくとも価値があるという事を言っている。更にこの情報に付加価値をつけることも可能だが、ブローカーとしての付加価値は投資家目線に立つことで生まれる。
例えば、普通商品を販売しようとするなら、購入者が実際買うこと決断する為に、費用対効果や他商品との比較検討に関する情報を提供するが、金融商品という商品に対しても同様のプロセスを踏むはずだ。投資家目線に立つということは、金融商品に関する情報を整理して提供し、商品間の比較をし易くすることをいう。

しかし、実際の販売現場における投資家への金融商品情報提供は如何かというと、残念ながら多くの場合は、情報(=金融商品)が有るか無いかという対応が未だ多い。そしてこの原因は、金融商品情報なら世の中に溢れているという錯覚と、永年の業界のビジネスモデルだった情報の非対称性に頼るという慣性が残っていることに依る。錯覚の方は、次の事を考えると気付く。
・販売現場で、必要な時に、すぐ使えるか
・販売者の目的に応じて整理されているか
・投資家の投資判断を後押しする為に、商品情報が比較しやすいか
確かに情報ベンダーやネット証券では、大量の情報が流されているが、販売現場の営業にとっても投資家にとっても、本当に必要な情報がなかったり、逆に過剰に溢れていて整理されていないので使えなかったりする。情報の非対称性の方は、売り手・買い手にはあって当然だが、ブローカーとしてそれは使えなのが世の流れだ。今年春先には、米国でコールドマンの証券化商品販売で、プロの投資家に売る場合でも問題になったが、一般投資家に販売する投信や債券は、ブローカーとして知っている情報は全て投資家に伝えなければならない。

以上のような販売現場での投資家向け金融商品情報提供の変化に対して、大手金融機関ならイントラ等を活用して対応しようとするが、そもそも商品情報が限られている中堅証券以下は、どう対応していくのだろう。それは投資家に提供する金融商品情報を共有していく方向に、各社のベクトルが向かうと予想するが、その兆候としての1例を紹介しておく。

最近募集中の高金利建て新発外債。引受証券は外国証券の日本支店、販売会社は中堅以下(ネット証券3社を含む)21社で、引受業務と販売業務の分離が行われている。また、販売会社の多くは外債の決済口座を持たないので、決済インフラはこの外証の海外口座をカストティアンとして頼るとみられる。そして投資家の売却時に対応も、この外証をカウンター・パティーとすることが予想され、その為には外証から販売会社へ当該外債の価格情報が持続的に提供されなければ売却に支障をきたす。つまりこの外証は、外債において共同販売の為のプラットフォーム的機能を提供しているとみられる。

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平成23年度税制改正要望纏まる=その2
前回に引き続き平成23年度税制改正要望(金融庁8月30日)を取り上げるが、前回上げた税制改正の目的とするところは後2つあって、アジアの中での日本市場を意識したものと個人投資家の利便性向上を狙ったものがある。

【目的:アジアのメインマーケット・メインプレーヤーとしての地位の確立】

○海外投資家が受ける特定目的信託の社債的受益権の配当を非課税とすること
[公表された主な理由]
・イスラム投資家は、宗教上の理由で利子を受け取れないので、出資の形態をとるイスラム債(特定目的信託を使った社債的受益権スキーム)のみ投資が可能
・主要国ではこのイスラム債スキームの配当は非課税、我が国は課税されるのでイスラム・マネーが全く呼び込めていない

←筆者コメント
イスラム債スキームに対する非課税措置が遅れていただけで、何のためにイスラム債スキームを行うかという目的からは非課税は当然。この要望について、証券界は余り馴染みがないが、信託業界などからだろうか。

○外国金融機関の受け取る証券貸借取引に係る現金担保利子・品貸料を非課税にする
[公表された主な理由]
・所謂株式レンディング=業者間の株の貸し借りに関する現金担保分の金利及び品貸料への非課税措置要望
・主要国では現金担保分の金利及び品貸料は非課税なので、日本での同取引が不利な状況になっている

←筆者コメント
業界の要望としては、余りこの件で議論された形跡はないし、かつ業者間の株式レンディングは、昔からあるので当要望には多少の違和感がある。外証あたりの要望だろうが、今までオフショアで行っていた当該取引が、各国の空売り規制等で支障が出ているので、日本国内での対応を増加したいということだろうか。ただし、国内での株式レンディング業務増加の為にこの要望を支持する。

○外国法人の申告対象を、恒久的施設(PE)に帰属する所得に限定すること
[公表された主な理由]
・OECD加盟国ほぼ全てにおいて、PEを有する場合、PEに帰属する所得のみが申告対象だが、日本は全ての国内源泉所得について申告が必要なので、対内投資の阻害要因になっている。

←筆者コメント
この件は正直良く解らないが、取引所がコロケーション・サービスで海外金融機関の取引を直接取り込もうとした時、取引所システムの近くに設置するこの海外金融機関用のサーバーが、PEかどうかという議論があったと思う。良く解らないのは、本来、この取引がこの金融機関の東京支店(当然PE)を経由して出されるべき取引なのに、同一グループの海外法人経由のコロケーションで取りついた時の扱いだ。

【国民が豊かさを享受できるような国民金融資産の運用拡大】

○生保のIPO株やライツ・イシュー等で株主に無償で割り当てられたもの、税制上の非適格ストックオプションや相続した持株会口座で保有する株も、特定口座への預け入れ対象に追加すること
[公表された主な理由]
・上記のものが、今まで特定口座対象リストに列挙されていなかったこと
・特定口座への個人投資家の参加拡大を図る

←筆者コメント
特にない。

○店頭デリバティブ取引等に関する課税方式を申告分離課税とし、デリバティブ取引(市場・店頭とも)特定口座での取扱いを認めること。
[公表された主な理由]
・例えば取引所FX取引は申告分離だが、店頭FX取引は総合課税で、経済的性質が同一の金融商品取引なのに同一に課税がされていない。

←筆者コメント
 調査会社によるFX取引の投資家調査では、この取引所・店頭の課税方法の違いに対する問題で8割以上の投資家が不満をもっていた。これからFX取引を強化したい証券会社にとっても望ましい要望だろう。またデリバティブ取引の特定口座扱いに対しては基本的には賛成するが、本来は金融所得一体課税の議論が先に必要だと考える。

 最後に、「金融税制調査会」にでは、現行の日本版ISAの制度設計に見直しを本格的に行うことが提案されていたが、業界においてはこの制度の本格的導入を前提にした制度設計議論を進めるべきで、単純な手続きの簡素化要望だけで何とも寂しい。

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平成23年度税制改正要望纏まる=その1
8月30日、金融庁より平成23年度の税制改正要望が公表された。これは、副大臣を座長に「金融税制調査会」が設置され、7月末より3回に渡り関係者による議論が進められ、その結果を金融庁で取りまとめたものだ。税制改正要望にあたっての基本的な考え方は、“6月に閣議決定された新成長戦略を踏まえて、「新金融立国」の実現を目指すため必要な措置を要望する”として、以下の要望項目を示している。

【目的:経済の持続的な成長への貢献】

○上場株式等の配当・譲渡所得に係る軽減税率を延長すること
[公表された主な理由]
・平成24年1月より、本則税率(20%)に戻ることが決定しているが、現在の軽減措置(10%)の延長要望
・配当の2重課税の問題は、例えば法人間の資本調達で、株式による配当よりローンの利子の受取りが有利な状況だが、軽減措置が撤廃されれば、株式の配当受け取りの方が更に不利になるとしている。
・過去の軽減措置の延長は、市場環境の悪化などで、景気回復優先措置から延長されている。
・軽減税率導入後(平成14年)、個人株主数が増加し市場の出来高も増加している。
・軽減税率導入により、高所得者層よりも、むしろ中・低所得者層が株式・投信の保有を伸ばしている。

←筆者コメント
 業界の総意のような要望事項だが、株式市場がこんな状況(金融危機後の2番底探し)の時、何も本則に戻さなくても良いのではというのが多くの関係者の本音だろう。軽減措置を実施したからといって市場が戻る訳ではではないが、少しでも悪材料を除いておきたいという処。業界の人間として気持ちは分かるが、これで本当に日本市場に個人の資金が向かうのだろうか。むしろ今だと個人の資金は投信(ファンド)を通して、新興国など海外に流れ、この措置が日本の株式市場に良い影響を与えることはない。もし、本気で市場対策として考えるなら、日本株及び日本物投信に限り、一定期間の保有を前提に非課税とする措置の方か効果はあると思われる。欧米の事例を基に、証券業界としても、もう少し工夫ある要望をした方が良いのではないか。

○金融商品に係る損益通算範囲及び損失繰越期間の拡大
・前年の税制改正大綱では、債券・公社債投信・預金の利子及び譲渡所得を、現在の源泉分離・非課税から、申告分離方式に本年度の改正で見直しを検討することが決まっている。これは、株や債券・先物などの金融所得一体課税を目指すものだ。
・損益通算期間は、現在3年間だが、この期間を拡大することを要望

←筆者コメント
この措置は元々金融所得一体課税(20%)に向けてのものだが、そうすると前述の配当・譲渡所得に係る軽減税率(10%)をいつまでも続けている訳にはいかない。つまり前の要望と、この要望は本来平仄が合わないものだ。

以上の二つの要望は、証券業界から強く要望されているものだが、日本市場や日本経済に影響を及ぼす証券税制議論を、市場対策・個人金融資産形成の為の金融所得一体課税の両面からもう少し深く行う必要があったのではないか。そうすれは、何故証券税制において税制を軽減する必要があるか、一般国民にも分かり易く、行政も思い切った措置がとれると思うのだが。ここ数年の同じような要望が繰り返されるのでは、少し寂しい。

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REIT近況
※以下の内容は、あくまでもREITの概要を把握する目的で作成されており、投資勧誘を目的としたものではありません。

 2001年9月12日に最初の2銘柄上場されてから、まもなく10年目に入ろうとするJ-REIT市場。株式市場全体は、金融危機後の2番底を模索するような展開だが、東証REIT指数の方は軟調ではあるものの、過去2年間では下値を切り上げているようにみえる。
・2008年10月28日:704.46
・2009年11月27日:814.88
・そして現在(8月末)は、906.27

このREIT指数も、9月13日からは、各REITが保有する投資物件の利用用途別に分類され、
「東証REITオフィス指数」=構成銘柄数18
「東証REIT住宅指数」=構成銘柄数10
「東証REIT商業・物流等指数」=構成銘柄数9
が、東証相場報道システムを通じてリアルタイム配信(15秒間隔)で証券会社、情報ベンダー等に新たに配信される。(※上記の各指数は、本年2月26日を1000ポイントとして計算)
現在REIT指数に関するETFは2銘柄上場されているが、これらの新しいREIT指数のETFが加わり、J-REIT投資の層が厚くなることが期待されている。

一方、一時は懸念されていたJ-REITのファイナンスの方も回復しており、年初から8月末まででは投資口(資本相当)の約1160億円、社債での1175億円、合計2335億円の資金調達が実施されている。J-REIT全体の負債:資本の比率は、概ね1対1なので、それに沿った調達と言え、またこの比率はここ1年間で余り変わらないが、グローバルでみると増資や借入金返済・資産売却などで資本の比率を高める動きが強まっているようだ。

 東証が自らのHP上で示すJ-REITの特徴が次のようになっている。[カッコ内は、筆者による近況の記載]

○取引所に上場して、通常の証券会社のインフラから売買可能。
[現在37銘柄が上場、時価総額の合計は約2.5兆円で、世界のREITシェアの6.1%を占める。なお、東証上場のクレッシェンド投資法人とジャパン・シングルレジデンス投資法人は、10月をメドに合併する。]

○リスク分散、専門家が不動産を運用。
[投資物件の具体的内容は、各REITのHP上若しくは取引所の適時開示ルールにより公表されている。J-REITの保有物件内訳は、7月末で、オフィス57%、商業施設19%、住宅18%。なお、シンガポールの不動産会社などが出資するアジア系ファンド「リキャップ2」が、日本ホテルファンド投資法人を買収することが6月下旬に公表されている。]

○安定した分配金、相対的に高い利回り。
[J-REIT全体の分配金利回りは、7月末で5.5%、日本国債利回りの0.9%台、東証1部銘柄の単純平均1.88%と比べてもかなり高い。グローバルに見ても、世界のREIT平均利回り4.3%により高いが、その数字は全体の57%を占める米国REITの分配金利回り3.6%が大きく影響している。]

○比較的手の届く金額で不動産投資が出来る。
[銘柄によっては1万円台から投資できるものもあるが、概ね一口30万~70万円台。ETFだと、1投資単位は9万円台]

※上記のREITに関する数字は、日興アセット「グローバルREITの投資再考」(8月作成)を参考にさせていただきました。

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